撮影ハードウェア編の第2章となります。
1.レンズがつくる実像
皆さんは、レンズとスクリーンを用いた理科の実験を覚えていますか?
レンズとスクリーンがあり、被写体(点P)の像がスクリーンに投影されます。
スクリーンに映った像のことを「実像」と呼びました。
レンズの前後にある点が「焦点」ですね。 (今回はレンズとの距離を30mmとしましょう。 )
この仕組みを利用して、被写体を像として記録する機械がカメラです。
スクリーンがセンサーにあたります。
さて、被写体(点P)の光は、どのような経路でセンサーへ届くのでしょうか。
光源から放出された光子の動きを見てみましょう。
光子は360度すべての方向に無数に放出されますが、
- 「レンズの上端を通過するもの」
- 「レンズの中心を通過するもの」
- 「レンズの下端を通過するもの」
の3つに絞って考えてみます。
点Pから放出された光は、レンズで屈折し、センサーの1点に収束します。
他の被写体(点Q)から放出された光も、センサーのどこか1点に収束します。
それが無数に存在することで、被写体をセンサーで捉えることができるのです。
2.焦点距離と画角の関係
被写体からセンサーまでの光の動きを確認したところで、
今度はセンサーから被写体までの光の動きを逆算して考えてみます。
今度は、
- 「センサーの上端に到達する光」
- 「センサーの下端に到達する光」
の2つに絞ります。
センサーの上端に到達する光も、下端に到達する光も、レンズの中心を通ってきたと考えることができますね。
焦点距離20mmのレンズの前に、被写体を設置してみました。
これは、ちょうど上から下まで収まる画角と言えます。
次は、焦点距離を40mmまで伸ばしてみましょう。
被写体の映る範囲が狭くなりましたね。
狭い範囲を、変わらない大きさでセンサーに投影するということは、拡大(ズームイン)したということです。
焦点距離が長いほど、画角は狭くなりました。
逆に、焦点距離が短いほど、画角は広くなります。
3.【深堀り】センサーとレンズの距離=焦点距離ではない!
実は、本来の焦点距離と、カメラ界隈の焦点距離では、意味合いが異なります。
本来の焦点距離とは、「平行線が収束する点とレンズの距離」です。
例えば、このレンズの焦点距離は30mmと言えます。
焦点距離は、レンズの屈折度から成り立つ概念です。
さて、カメラ界隈では、「センサーとレンズの距離」を焦点距離と定義します。
先ほどの30mmのレンズを使って、点Qにピントを合わせて撮影した場合のセンサーとレンズの距離は60mmです。
これは、「拡散光線」と「平行光線」という、光線の違いによって発生します。
拡散光線とは、距離が有限であるとき(有限遠)の光線です。
例えば、レンズと光源の距離が近い場合、光線は光源を中心に拡散するような線を描きます。
これが、拡散光線です。
このまま光源をレンズから放してみましょう。
だんだんと光線が平行に近づいていきます。
そして、距離が無限大(無限遠)になると、完全な平行になります。
これが平行光線です。
身近な例だと、太陽や星空でしょうか。
無限遠の被写体を撮影するとき、「本来の焦点距離」と「カメラ界隈の焦点距離」の意味が一致しました。
さて、フォーカス移動によってレンズとセンサーの距離が変わるため、画角も変化してしまいます。
このフォーカス移動に伴う画角の変化をブリージングと言います。
レンズによって、ブリージングが起こらないように補正されていますが、性能は様々です。
例えば、フォーカス送りによる画角の変化が許されないような映画界隈では、ブリージング補正能力に優れたレンズが使われています。
一般的に、シネレンズと呼ばれているものですね。(ほかにも違いは数多くあります。)
4.センサーサイズと画角の関係
今度は、焦点距離を変えずに、画角を変えてみましょう。
変化できそうなものと言えば、センサーサイズですね。
小さくしてみましょう。
センサーの上端と下端から、レンズの中心を通る線を描くと、センサーサイズの違いによって画角が変わることがわかると思います。
センサーサイズが大きいほど画角は広く、小さいほど狭くなりました。
画角は「焦点距離」と「センサーサイズ」によって変わるのですね。
5.センサーサイズの規格
このセンサーサイズには、規格があります。
大きい順に、代表的なものとして
- フルサイズ(FF=FullFrame)
- APS-C(Super35)
- マイクロフォーサーズ(4/3)
- 1型
等があります。かっこ内は略称や別名です。
フルサイズやAPS-Cが写真界隈では有名ですね。
6.フルサイズ換算
カメラ界隈では、画角を焦点距離の数値で表します。
しかし、そうなると問題が発生するのです。
例えば、ディレクターから20mmで撮影してほしいと言われたとします。
しかし、AさんとBさんのカメラのセンサーサイズは異なりました。
すると、焦点距離でも画角が変わってしまうのです。
フィルム時代からフルサイズ規格が広く普及していたため、「フルサイズセンサーを搭載したカメラで撮影した際の画角を基準に話をしよう」ということにしたのです。
「フルサイズ換算40mmで撮影して」と言われたら、フルサイズのカメラで40mmのレンズを装着した際の画角で撮影します。
フルサイズ以外のカメラで撮影を行う場合は、意思疎通のため、焦点距離のフルサイズ換算を行う必要があるのです。
7.フルサイズ換算の計算方法
実際にフルサイズ換算をする際には、上記の公式が使われます。
フルサイズ換算とは、自身のレンズの焦点距離をフルサイズの焦点距離に変換する際の計算です。
換算倍率が重要なポイントとなります。
換算倍率は単純なので、暗記してしまいましょう。
- フルサイズ=1
- APS-C=1.5
- マイクロフォーサーズ=2
- 1型=2.72
となります。
さて、練習問題です。
マイクロフォーサーズのカメラを持っています。
ディレクターから、フルサイズ換算80mmで撮影したいと頼まれました。
何ミリのレンズを使えばいいでしょうか?
公式を使ってみましょう。求めたいものをXとします。
換算倍率はマイクロフォーサーズなので2ですね。
ですので、X=40となります。
つまり、40mmのレンズを装着すれば、フルサイズ換算80mmの画角で撮影できるのです。
8.フルサイズ換算とは何か
このフルサイズ換算倍率という数値はどこからきているのでしょうか。
答えは相似比です。(厳密には各センサーサイズの縦横比が若干違うので、完璧な相似とは言えませんが。)
APS-Cを1とすると、フルサイズは1.5。
という比が成り立ちます。
比の内向と外向の積が等しいという性質から、
となりますね。
APS-Cに1.5を乗じるとフルサイズの焦点距離と等しくなるのです。
9.焦点距離と呼び方
レンズは大きく分けて、
- 広角レンズ
- 標準レンズ
- 望遠レンズ
があります。
フルサイズ換算で
- 広角:24mm以下
- 標準:24~70mm
- 望遠:70mm以上
という区切りでレンズが販売されていることが多いです。
10.遠くから望遠で撮影する写真と、近くから広角で撮影する写真は同じか?
被写体を同じ大きさで撮影することを前提として、
遠くから望遠レンズで撮影する場合と、近くから広角レンズで撮影する場合の比較をしてみましょう。
このように、被写体の大きさは同じでも、背景の映る範囲が変わるのがおわかりでしょうか。
焦点距離で構図を調整するだけでなく、自分自身が動きながら撮影すると、構図のバリエーションが増えると思います。
11.圧縮効果
遠くから望遠レンズで撮影したこちらの写真。
飛行機と飛行機雲の距離がとても近く見えませんか?
本来、飛行機と雲の距離が遠いため雲は小さく見えるはずですが、遠くから拡大して撮影することにより、雲が大きく見えます。(背景の映る範囲が狭い=雲が拡大されて見える)
「大きく見える=近くにある」と人間は感じてしまうので、飛行機と雲の距離が短いと認識し、圧縮されたと感じるのです。
誤解されやすいですが、焦点距離は関係ありません。
広角レンズでも、遠くから撮影し、拡大トリミングすれば圧縮効果を得ることができます。
まとめ
- カメラとは、レンズとセンサーを用いて被写体の像を記録する機械。
- 焦点距離が長いほど画角は狭く、短いほど広くなる。
- 無限遠の被写体を撮影するとき「本来の焦点距離」と「センサーとレンズの距離」が一致する。
- センサーサイズが大きいほど画角は広く、小さいほど狭くなる。
- センサーサイズには規格がある。
- フルサイズ換算とは、異なるセンサーサイズでも画角を統一するための計算。
- 手持ちのレンズの焦点距離×換算倍率=フルサイズ換算の焦点距離
- フルサイズ換算倍率とは、自分のカメラのセンサーサイズを1とした時の、フルサイズとの相似比。
- ~24mmが広角、24~70mmが標準、70mm~が望遠。
- 遠くから望遠で撮影する写真と、近くから広角で撮影する写真を比較すると、背景の映る範囲が異なる。
- 被写体と背景の距離が離れている場合に、拡大して撮影することで距離が圧縮されるように感じる効果を圧縮効果という。
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↓ハードウェア編まとめ